なぜ車椅子生活でも立位トレーニングが重要なのか?
- Sit-Fit Owner

- 3 日前
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車椅子での生活は、移動の自由を確保するための重要な手段です。
しかし同時に、それは「長時間座り続ける」という、人間の身体が本来想定していない状態を日常化させることでもあります。
多くの方が、車椅子生活における課題として「移動のバリア」を想像されますが、実はそれと同じくらい深刻なのが、この「長時間座位」が引き起こす「二次障害」です。
骨がもろくなる、関節が固まる、内臓の調子が悪くなるなどこれらは、対策をしないと悪化し続けてしまいます。
ここではなぜ車椅子ユーザーにとって定期的に「立つこと(立位)」が重要なのか、身体に起こる変化その科学的な根拠と共にご説明します。
そして、ただ立つだけでなく、なぜ「質の高い立位」が必要なのか、UTCが起立台などの機器を使わず、専門のトレーナーによるマンツーマンの補助にこだわる理由を徹底的に解説します。
なぜ「立つ」のか? 長時間座位が招く二次障害と立位がもたらす科学的恩恵
車椅子生活では長時間の座位姿勢は避けられませんが、身体の確実に悪影響を及ぼします。そして立位はこれらの問題を根本から断ち切るための、最も強力な「予防医学」の一つです。
①:骨密度(骨粗鬆症の予防)
長時間座位リスク:
人間の骨は、重力に対して体重を支える「荷重」がかかることで、その強度を維持します。座っている状態では、体重の多くが坐骨(お尻の骨)にかかり、身体の中で最も太い骨である下肢(大腿骨や脛骨)には、本来かかるべき垂直方向の荷重が一切かかりません。
この「荷重不足」により、骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きが活発になり、骨からカルシウムが急速に溶け出します。脊髄損傷者の場合、受傷後わずか数年で、大腿骨などの骨密度が健常者の50%〜70%程度まで低下することが報告されています。これにより、非常に軽微な外力(例えば、ベッドへの移乗の失敗)でも骨折するリスクは、健常者の数十倍に達すると言われています。
立位による効果:
立位は、この下肢の骨に対して、体重という最も自然で強力な「長軸方向の荷重」をかける唯一の方法です。多くの研究が、60分程度の立位プログラムが、この危険な骨密度の低下を有意に遅らせる、あるいは維持することに貢献すると示しています。これは、将来の骨折リスクを管理する上で最も重要な介入です。
②:拘縮(関節可動域の維持)
長時間座位リスク:
車椅子の基本姿勢は、「股関節」と「膝関節」を常に曲げた状態です。筋肉や腱、関節を包む袋(関節包)は、長時間同じ位置にあると、その短い状態で固まってしまいます。これが「拘縮(こうしゅく)」です。
脊髄損傷者の30%〜60%以上に拘縮が発生すると報告されています。特に、座位で常に縮こまっている股関節の前面(股関節屈曲拘縮:約40%の有病率)や、膝裏、足首(尖足)に好発します。一度拘縮が起こると、着替えや移乗、陰部の清拭(せいしき)といった日常のケアが非常に困難になります。
立位による効果:
立位は、これらの関節を座位とは真逆の伸展位(伸ばす位置)に保ちます。これは、リハビリ現場で行われるストレッチの中で、最も持続的かつ効果的な方法の一つです。特に股関節を 0度近くまで伸ばす姿勢は、縮こまった筋肉や組織にとって最高のストレッチとなり、関節可動域の維持・改善に直結します。
③:痙性(筋肉の異常な緊張)
長時間座位リスク:
脊髄損傷や脳卒中など中枢神経系に損傷があると、脳からの抑制信号がうまく伝わらず、筋肉が意図せず過剰に緊張してしまう「痙性(けいせい)」が起こることがあります。
脊髄損傷者の約65%〜78%が何らかの痙性を経験し、そのうち30%以上が日常生活に支障をきたす(痛みを伴う、移乗を妨げるなど)レベルであると報告されています。
立位による効果:
立位による持続的な筋伸張と、足底からの体重負荷(荷重)の感覚入力は、脊髄の反射回路に働きかけ、この異常な筋緊張を一時的にリセットし、緩和する効果があることが多くの研究で示されています。30分〜60分の立位が、痙性のコントロールに有効であると推奨されています。
④:内臓機能(消化器・泌尿器系)
長時間座位リスク:
座位姿勢は、腹部を圧迫し、内臓(特に腸)の活動を物理的に妨げます。また、重力による自然な排出が促されません。その結果、脊髄損傷者の30%〜80%が、排便コントロールが困難な「神経因性腸機能障害(NBD)」による重度の便秘に悩んでいるとされます。食べ物が腸を通過する時間(腸管通過時間)が、健常者の2倍以上に延長することも珍しくありません。また、泌尿器系においても、尿が膀胱や腎臓に残りやすくなる(残尿)ため、尿路感染症や結石のリスクが高まります。
立位による効果:
立位は、内臓の圧迫を解放し、重力を味方につけて腸の蠕動(ぜんどう)運動を促し、排便をサポートします。同様に、腎臓から膀胱への尿の流れをスムーズにし、残尿を減少させ、感染症リスクを低減させる効果が期待できます。

ただ立たせるだけでは意味がない。UTCが「起立台」を使わない理由
上記が立位の重要性でしたが、次に問題となるのは「どうやって立つか」です。
一般的に、病院や施設では「起立台(スタンディングフレーム)」や「ティルトテーブル」といった機器が使われます。これらは、ベルトやクッションで身体を固定し、安全に長時間立つことを助ける優れたツールです。
しかし、UTCでは、原則としてこれらの機器を使用しません。
なぜなら、私たちの目的が機器による「受動的な立位」ではなく、トレーナーの専門的なサポートによる「能動的かつ質の高い立位トレーニング」を提供することにあるからです。
機器による立位と、トレーナーによる立位補助には、決定的な違いがあります。
①:サポートの質
機器(起立台)の場合:
ベルトで膝や体幹を「固定」します。これは安全ですが、利用者はベルトに寄りかかり、お尻を引いた「く」の字の姿勢や、膝が曲がった姿勢のまま立つことができてしまいます。これでは股関節や膝は十分に伸びず、拘縮予防や骨への適切な荷重効果は半減してしまいます。
トレーナーサポートの場合:
UTCは、利用者の能力を瞬時に評価し、「利用者が自ら立とうとする力を最大限に引き出す、必要最小限のサポート」をリアルタイムで調整します。お尻の筋肉(殿筋)や体幹の筋肉が使えていないと判断すれば、あえて補助を減らしたり、触覚的なフィードバック(手で触れて意識させる)を送ったりします。
これは「固定」ではなく、正しい姿勢への「誘導」であり、「運動学習」 そのものです。
②:理想のアライメント
機器(起立台)の場合:
機器は「悪い姿勢」を許容してしまいます。利用者が楽な姿勢で寄りかかっていれば、それは単なる「固定」であり、「トレーニング」ではありません。
トレーナーサポートの場合:
UTCトレーナーは、解剖学・運動学のプロフェッショナルです。私たちは、立位における「理想のアライメント(姿勢)」を徹底的に追求します。
股関節 伸展 0度(くの字に曲げない)
膝関節 伸展 0度(膝を曲げない)
足関節 90度(足裏全体で荷重する)
骨盤 中間位(反り腰や猫背にしない)
この「質の高い立位」を達成するために、利用者の身体をミリ単位で調整し、正しい筋肉の使い方を指導します。
③:「静的立位」vs「動的立位」
機器(起立台)の場合:
その場でじっと立つ「静的立位」が基本です。
トレーナーサポートの場合:
UTCでは、安定して立てるようになったら、すぐに次のステップ「動的立位」に進みます。
UTCトレーナーのサポートのもと、立ったまま重心を左右に移動させる、手を伸ばして物を取る(リーチング)、腕をふる(スイング)、体を捻る(ツイスト)といった練習を行います。この「動的なバランス訓練」こそが、移乗(トランスファー)動作の安定や、その先のハイパフォーマンスへとつながる、最も重要で機能的なリハビリテーションであり、機器では得づらい効果です。
「座り続ける」ことは、ゆっくりとあなたの身体の健康を蝕んでいきます。
立位はそれを防ぐための「特効薬」です。
しかし、ただ立てば良いわけではありません。どうせ立つなら、「最も効果的で、最も機能的な、質の高い立位」を行うべきです。
UTCが提供するのは、「立たせる」という単純な作業ではありません。あなたの身体に残された能力を120%引き出し、正しい立ち方を脳と身体に再学習させ、昨日できなかった「次の一歩」へとつなげる、専門的な「立位トレーニング」です。
「もう一度、自分の足で体重を支える感覚を取り戻したい」
「拘縮や痛みを本気で改善したい」
そうお考えなら、UTCのユニトレPERSONALをご体験ください。
あなたの未来を変える「最高の一歩」を、私たちが全力でサポートします。
参考文献:


